人件費シミュレーションの作り方|採用・昇給・退職を月別に比較する表
表の目的は一つの正確な予測を当てることではなく、どの条件が変わると費用と事業の成立条件がどう変わるかを確認することです。本記事の成果物は、前提条件表、月別比較表、判断メモの3点です。
合計人件費を直接書き換えず、人数・単価・時期に分ける
「来期の人件費は今期の10%増」と合計だけを置くと、採用が遅れた場合や退職が生じた場合に更新できません。社員ごと、または職種・等級ごとに、在籍する月、固定的な支給額、会社が負担する費用、変動する支給の条件を分けます。給与計算や会計の確定値と、計画上の仮定も別にします。
CIPDのワークフォースプランニング資料は、現在の人員を把握し、将来必要な人材とのギャップを確認して、複数の将来像に備える考え方を示しています。本記事ではこの考え方を月次の人件費判断へ落とし込む独自の設計例を示します。税・社会保険・会計処理の個別判断は、社内の担当者や専門家と確認してください。
最初に作る前提条件表
| 前提 | 記入する内容 | 更新のきっかけ |
|---|---|---|
| 期首人員 | 部門、職種、雇用区分、在籍開始月 | 異動・休職・退職が確定したとき |
| 採用 | 役割、予定入社月、月額、採用確度、受入担当 | 求人開始、候補者進捗、入社日の変更 |
| 昇給・賞与 | 対象、反映月、計算方法、未決定の場合の幅 | 評価・報酬の決定時 |
| 会社負担費 | 会社負担分、手当、福利厚生など計画に含める範囲 | 料率・制度・対象範囲の変更時 |
| 退職と補充 | 退職月、補充の要否、引継ぎ期間、欠員許容期間 | 退職確定または補充方針の変更時 |
| 外部人材 | 委託範囲、月額・時間単価、終了条件 | 契約更新、業務量、内製化判断のとき |
採用確度を金額へ掛ける方法は、期待値を一つにまとめられる一方、実際に「0.6人」が入社するわけではありません。経営判断には、採用できた場合とできない場合を別シナリオで表示する方が分かりやすいことがあります。
三つのシナリオを比較する手順
- 承認済みの人員計画を基準案として固定する。
- 事業上重要な変数を一つか二つ選ぶ。例:採用月、昇給の反映月。
- 前倒し案、基準案、延期案の月別人員と費用を計算する。
- 各案で可能になる仕事と、埋まらない仕事を記入する。
- 追加費用の上限、決定者、再判断日を決める。
全ての条件を同時に動かすと、差額の理由が分からなくなります。まず一つの条件を変え、その後に複数条件の組み合わせを確認します。売上や利益との連動を見る場合も、人件費の差だけでなく、稼働開始までの教育期間や受入担当者の時間を別の前提として残します。
架空例:採用時期を比較する
以下は顧客実績や相場ではない架空例です。採用する一人の月額人件費を50万円、入社月から費用が発生すると単純化し、採用費・賞与・会社負担費・教育担当の工数は含めません。実務では自社で含める費目を定義してください。
| 案 | 入社月 | 年度内の在籍月数 | 年度内人件費 | 事業上の確認事項 |
|---|---|---|---|---|
| 前倒し案 | 4月 | 12か月 | 600万円 | 受入担当と4月から任せる仕事を確保できるか |
| 基準案 | 7月 | 9か月 | 450万円 | 4〜6月の業務を誰が担うか |
| 延期案 | 10月 | 6か月 | 300万円 | 延期で止まる仕事と、外注・配置変更の費用 |
この例では前倒し案と延期案の差は300万円ですが、差額だけで延期を選びません。早期入社によって可能になる仕事、受入余力、採用できない場合の代替策を並べて判断します。「売上が600万円増える」といった効果は、仕事量・単価・立ち上がり期間の根拠がない限り置かないようにします。
経営会議へ出す判断メモ
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 決めたいこと | 対象職種の採用を4月開始・7月入社の基準案で進めるか |
| 推奨案と理由 | 基準案。4〜6月は配置変更で対応でき、受入担当の準備期間を確保できる |
| 費用差 | 前倒し案より150万円少なく、延期案より150万円多い。いずれも上記仮定の範囲 |
| 残るリスク | 採用未達、入社日の変更、既存社員への負荷 |
| 次の確認 | 求人開始後の候補者状況と、配置変更後の業務量を確認 |
| 再判断日 | 候補者状況が分かる日、または費用上限へ達する前 |
よくある質問
何年分を作ればよいですか?
まず意思決定に必要な期間を月別で作ります。予算年度だけで契約・採用の影響が切れない場合は翌年度まで延ばし、遠い将来ほど仮定が増えることを明記します。
法定福利費は何%で置けばよいですか?
一律の率を本記事では示しません。対象者、報酬、制度、時点により異なるため、自社の給与・会計データと担当者の確認に基づき、使用した率と確認日を前提表へ残してください。
基礎となる人員計画は人員・人件費計画の作り方、予実差の分解は人件費の予算実績差異も参照してください。
参考資料:CIPD:Workforce planning(2026年10月1日確認)。シミュレーション表と架空例はCareerSync編集部による設計例です。
この記事はCareerSyncの支援方針・実務上の考え方を整理したものです。個別の顧客事例や成果の報告ではありません。
